『貧乏が先か貧乏神が先か』 作・春名功武

〈あらすじ〉

貧乏人に取り憑いた貧乏神。何やら揉めているようで…

〈本文〉

要するにお前さんが言うてるのは、卵が先かニワトリが先かというような事やろう。それとは全くちゃうな。そんな難問やないのよ。

貧乏神っていうのは、取り憑いた人間(家)やその家族を貧困にする神さんなんよ。貧乏人に取り憑くわけじゃない。金持ちにだって取り憑くよ。

だから、どっちが先かと言えば、貧乏神が先やな。

一応説明しとくとな、ターゲットに取り憑く、生気を吸い取る、生気を吸われたターゲットはやる気がなくなる、働かなくなる、不運を招く、貧乏になる、そういう手順でやってるわけよ。

え、今も生気を吸い取ってるのかって。吸い取ってるよ。全然痛みとか感じひんやろ。ワシ、上手なんよ。下手な奴もおるから、ワシでラッキーやったで。まぁ貧乏神に取り憑かれて、ラッキーって事はないか。

ワシが取り憑いた日?ちょっと待ってなぁ。スケジュール帳見るから。え~と、昨年の12月22日やな。そういえば、ちょうど冬至の日やったわ。

え、お前さん、ワシが取り憑く前から、貧乏やったって……

まぁ、家の感じ見たら、何となくそんな気はしたけど。

いや、それはたまたまお前さんが、貧乏やっただけで、貧乏人に取り憑くわけやないのよ。貧乏神が先やねんから。

ハァ!?何それ。意味分からん。

手なんか抜いてへんわ!

貧乏人に取り憑いて、自分の手柄にしてるて。嫌な言い方するな。

ハァ!?ビビってるか!何でワシが金持ちにビビるねん。ない、ない、劣等感なんかあらへん!

さっきも言うたけど、金持ちにだって取り憑くっちゅうねん。えぇ?ずっとこの格好やで。貧乏神いうたら、薄汚れたボロボロのダメージ着物に、痩せこけた体、青ざめた顔やろ。そら、金持ちの前でもこの着物よ。いや、恥ずかしないわ!劣等感ないっちゅうねん。しつこいなぁ。

言うとくけど、このボロボロの着物、これ仕事着やから。プライベートではもっとええ服着てますから。ストリート系が多いかなぁ。え、意外に似合いそう。おい、照れるやんけ。いや、だからって、ストリート系のファションして、貧乏神でっせ、なんて言うても、みな信じひんやろ。だから、こういうスタイルなわけよ。

それに、取り憑くこっち側からすると、お金持ちを貧乏にする方が簡単なんやで。楽な仕事よ。そらそうやん。アホに勉強教えるより、かしこに勉強教える方が難しいやろ。それと同じ。貧乏人をさらに貧乏にするって相当な技術がいるんやから。

だから、お前さんを貧乏にするのも、ワシやからやれてるけど、しょうもない貧乏神やったら、逃げ出してるところやで。

え、元々貧乏やから、貧乏にされた実感がないって。不感症か!むちゃくちゃ貧乏になってるやろうが。

分かりやすいんでいうたら、この鉛筆だってそうやん。ワシの力でこうなったんやないか。いわゆる、貧乏削りな。

ちっちゃって、何やねん。このご時世に貧乏削りやぞ。なかなか見れるもんやないで。

ほな、逆に質問するけど、ワシがこの家に取り憑いてから、ついてないなぁとか、そういうのないか。思い出してみ。

そうやなぁ、たとえば、財布を落としたとか。え、3か月前にカバンを引っ手繰られた。それそれ。まさに、それワシの力や。あるやん。
ちゃうちゃう、ワシが犯人とちゃう。ワシが取り憑いたから、そういう不運が起こったってことや。他にはないか。

え、父親から入学祝いで買ってもらった時計を無くした。それもワシの力や。他には。もっとちょうだい。

え、友達のデジカメを壊して弁償した。おお、それもや。どんどん出て来るやん。他は?

子供の頃、親せきから貰ったお年玉を落とした。それはちゃう!絶対ちゃう!子供の頃やろ。ワシが取り憑いたん去年やから。ちゃうに決まってるやん。考えたら分かるやろ。

とにかく、今の貧乏はワシの力って事よ。何、その納得いってない顔。

ピンポ~ン、ピンポ~ン。

え、あんたら借金取りなん。何や、ワシの恩恵を受けてる側の人間やん。そうかいなぁ。あんたら、ワシがいなかったら、商売あがったりやで。

で、今日はこいつの借金を取り立てに来たんか。でも悪いけど、こいつ金ないよ。マックスでない状態やから。だって、ワシが取り憑いてるんやから。あったら可笑しいやん。

せっかく来てもろて悪いけど、ムダ足になったなぁ。

考えがあるって。興味深いね。参考までに聞かせてや。なるほど、マグロ漁船ね。その手があったか。さすが借金取りや。あんたら噂通りの鬼やな。

そういう事なら、お前さんとも今日でお別れやなぁ。頑張って働きや。誰がついて行くねん。ワシ、船酔いするから船はNGなんよ。しかしお前さんにとっては良かったんちゃう。ワシからも解放されて、借金もなくなるねんから。

ハァ?!お前さん、寝言は寝てから言うて。何で、ワシがお前さんの代わりに借金返さなあかんねん。え、貧乏なのはワシのせいやからって。

さっきまで、元々貧乏やったとか言うてたくせに、ようそんな事言えたなぁ。

え、言うてない?元々貧乏やって言うてない。記憶にないって。こわ。怖すぎるわ。お前さん、嘘はあかん。嘘付いたら閻魔のおっさんに舌抜かれるぞ。そこはちゃんとしようや。

もう1度聞くで。元々貧乏やって言ったよね。頑固として言ってない?何なの人間って。怖すぎる。

ちょっと、何々。借金取りのあんちゃん、どないしたんよ。痛い、痛い、引っ張らんとってくれるか。え、もしかして、あんちゃんたちもこいつの借金をワシが返すの賛成なわけ。

嘘やろ。こいつが作った借金やで。え、まぁ確かにワシがおるかぎり、こいつは貧乏やから、いっこうに借金は返されへんで。だからって、ワシが返すんはおかしいやろ。保証人やないねんから。

マグロ漁船行こか、やないねん。痛い、痛い、引っ張らんとってって。破れるやろ。もう破れてるやん、じゃないねん。ダメージって言うて。ワシ、あかんって。船酔いするから。それに、ワシがマグロ漁船に乗ったら、釣れるもんも釣れんくなるで。そらそうやろう。貧乏神嘗めんなよ。

やっと分かってくれたか。それにしても、借金をワシに擦り付けるなんて、ほんまろくでなしに取り憑いたもんやで。本来なら貧乏神がこんな事を言うんはおかしいかもしれへんけど、我慢の限界や。

お前さん、ちゃんと生きろよ。自分のケツは自分で拭くもんや。そら、人生って思うようにならん事ばっかりやで。良い事なんてほとんどあらへん。だけど、一生懸命に生きるしかないんよ。ずるく立回ってばかりおったら、性根が腐りきって、糞みたいな人生になってまうで。

ごめんな、説教くさなって。ただ、ワシ、お前さんの事嫌いやないからさ。がむしゃらに生きる楽しさを分かって欲しいだけなんよ。お前さんなら出来る思うから言うてるねんで。

何や泣いてるんか。どうしたん。え、そうか。マグロ漁船に乗る決心ついたんか。よう言うた。何か嬉しなってきたわ。こっちまで泣けてきた。年取ると、こういうのに弱なる。

アカン、何とかしてやりたなる。だから、ワシ甘いって言われるんやろうなぁ。

よし、ちょっと待っとけ。特別大サービスや。マグロ漁船だけは回避したろ。

あの、借金取りのあんちゃん、相談なんやけど…マグロ漁船に乗らなくても、借金返す方法思いついたんや。ワシがこの家から出ていけば、今のこいつやったらこれくらいの借金返せる思うんよ。

生まれて初めて前を向いて歩き出そうとしてるんや。信じたってもええんちゃうかな。貧乏神が取り憑いた状態で、前を向くって、誰にでも出来る事やないよ。こいつの決意は本物や。だからもう少しだけ待ったって。

え、出来へん?こっちも仕事…。それは分かるけど。そこを何とか。そうか、こんなに頼んでも無理か。

だったら、ワシ、あんたらのどっちかに取り憑こかなぁ。貧乏神に取り憑かれた借金取りは、仕事にならんやろうなぁ。ワシの力、甘く見ない方がいいよ。

あ、そう、待ってくれる。さすが物分かりがいい。じゃ、頼むで。

おい、聞いてたか。待ってくれるって。また泣いて。よう泣くヤツやな。泣くなよ。

そういうことで、ワシ出て行くから。お前さんは頑張って借金返すんやぞ。

出て行かんとってって。そんなん言われたん初めてやで。ありがとうなぁ。うれしいわ。

だけど、貧乏神が出て行くのはええ事なんやで。泣くなって。ワシかって出て行きたないよ。決心鈍るやんか。でもな、お前さんにとって、ワシがおらん方がええんよ。じゃあなぁ。立派になるんやで。

ピンポ~ン、ピンポ~ン。

あの、ワシやけど。覚えてるかなぁ。十年ぐらい前かなぁ、一緒に住んでた貧乏神です。ほんま懐かしなぁ。話したい事いっぱいあるわ。それにしても、立派なったなぁ。ごっつい大きい家住んで。セキュリティも凄いんやろうなぁ。あ、盛り塩してる。悪いけど、どかしてくれへんかなぁ。入られへんくて…あの、聞いてる?盛り塩どけて。え?え?無視?無視してるの。お前さん変わったなぁ。これやから、金持ちは嫌やねん。もうええ。貧乏人のとこ行こう。

作者プロフィール

春名功武(はるないさむ)

1977年、兵庫県生まれ。2000年大阪シナリオ学校演芸放送台本科卒業。第7回テレビ朝日21世紀新人シナリオ大賞優秀賞受賞。フジテレビ『世にも奇妙な物語』の脚本を執筆。第1回日経「星新一賞」優秀賞(JBCCホールディングス賞)受賞を経て、小説家としてデビューする。2015年からアニメ「ちびまる子ちゃん」の脚本をレギュラーとして担当し現在に至る。

【問い合わせ先】

メール:i.haruna@samba.ocn.ne.jp

小説を読もう!」にて作品掲載中。

 

前回のコラムはこちら↓

『よくばりの代償』 作・春名功武

2020年7月18日