京都嵐山から少し足を伸ばすと、ひとつひとつ表情が違うユニークな羅漢像(らかんぞう)が並ぶ「千二百羅漢(せんにひゃくらかん)」で有名な「愛宕念仏寺(おたぎねんぶつじ)」があります。
古くから火伏せの神様として信仰を集めている愛宕山(あたごさん)の参道のふもとにある天台宗の仏教寺院です。
今回は嵯峨野めぐりの出発点ともされるここ愛宕念仏寺の見どころを、ユニークな羅漢像とともにご紹介します!
まずは歴史から!|なぜ羅漢像が生まれたのか?
天平神護2年(てんぴょうじんご766年)、称徳天皇(しょうとくてんのう)によって開基されました。
元々は「愛宕寺(おたぎじ)」という名前で東山松原通の地、六波羅蜜寺(ろくはらみつじ)の近くに創建されたそうです。
平安時代の初めには真言宗東寺派の末寺となっていたようで、醍醐天皇(だいごてんのう)の時代には荒れたお寺になってしまっていたそうです。
その後、鴨川の洪水で堂宇を流されてしまい、廃寺となってしまいました。
醍醐天皇の命によって天台宗の僧である千観(せんかん)が復興しました。念仏上人(ねんぶつしょうにん)と呼ばれていた千観がこのお寺で念仏を唱えていたことから「愛宕念仏寺」と名前を変え、天台宗に属すことになりました。
その後は時代とともに興廃を繰り返し、1922年(大正11年)に本堂の保存のために現在の土地に移ってきましたが、太平洋戦争中に無住となり、1950年(昭和25年)のジェーン台風で大きな被害を受けてしまい、廃寺となってしまいました。
1955年(昭和30年)に天台宗本山延暦寺から僧侶の西村公朝(にしむらこうちょう)に愛宕念仏寺の住職として再興させるよう任命しました。
仏師でもあった西村公朝は、かつて戦地におもむいた時に、何千何万体もの壊れた仏像が出てくる夢を見たそうです。
「もしかしたら、私に直してもらいたいのかもしれない」と思い
「修理するので日本に帰らせてくれないか」
と仏像に話しかけたところ、夢から覚めました。
願いは叶い、無事に日本に戻ることができた後には、京都の三十三間堂や広隆寺、東寺の仏像の修復に全力を尽くしました。
そんな彼も廃寺の住職になって欲しいといわれたこの時は、引き受けるのをためらったといいますが、清水寺の僧侶である大西良慶(おおにしりょうけい)から
「それだけ傷んでおれば、草一本むしりとっても、石一つ動かしても、おまえは復興者、復興者やといってもらえる。わしも手伝ってやるから」と激励されたことで、復興に取りかかったそうです。
そうして1980年(昭和55年)には、10年がかりの仁王門の解体修理が始められた他、本格的に境内の復興に着手しています。
翌1981年(昭和56年)からは、西村公朝が復興を願い「境内を羅漢像でいっぱいにしたい」とし、一般の参拝者がみずから羅漢像を彫って奉納する「昭和の羅漢彫り」が始められました。
上:羅漢像と西村公朝(にしむらこうちょう)
下:参拝者が羅漢像を作る様子
当初500体が目標でしたが「仏師でなくても、祈る気持ちさえあれば誰でも仏像を作ることができる!」という合言葉と共に、一般の参拝者がみずから彫った羅漢像はどんどん数を増やしていき、10年後には1200体にまで達しました。
そうして作られた羅漢像は「千二百羅漢」と呼ばれ、境内のあちらこちらに祀られています。
どれも作った方の個性があらわれていて、見ていてとても面白いです!後ろにはちゃんと彫った方の名前が書かれていますよ。
今や親しみを込め”羅漢さん”と呼ばれ、多くの参拝者を集めるようになりました。
羅漢さんは「阿羅漢(あらかん)」とも呼ばれます。仏の教えを伝えた聖人でお釈迦様の弟子のことです。
本堂|ご利益は安産祈願や子授け
本堂は鎌倉時代に再建され重要文化財建造物に選定されています。
ご本尊は十一面千手観世音菩薩である「厄除け千手観音」が鎮座されています。
ご利益は、病気の治癒・滅罪・福徳・敵から守ってもらえる・所願成就・安産・男女の産み分け
こちらには他にも
「訶梨帝菩薩(かりていぼさつ)」:子宝授与・ご無事安産・子育て成就・成長健全祈願
「飛雲観音(ひうんかんのん)」:航空安全祈願
がいらっしゃいます。
厄除け千手観音のお顔を見ますと眼差しが左右対称であることや、厳しさと優しさという仏の慈悲の二面性が顔の左右に分けて表現されているのが特徴で「慈面悲面の千手観音」とも呼ばれています。
境内は見どころいっぱい!
境内を埋め尽くす羅漢像はもちろん、他にも見どころはたくさんありますよ!
仁王門
まずは愛宕念仏寺の入り口である仁王門です。
江戸時代中期に建てられました。
京都市指定有形文化財である「金剛力士(仁王)像」が安置されています。
羅漢洞
極楽浄土とされる「蓮華蔵世界(れんげぞうせかい)」を描いたといわれる天井画や、お釈迦さまの10人の弟子である「十大弟子像」などが見られますよ。
ふれ愛観音堂
ここには金色に輝く「ふれ愛観音」がまつられており、手で触れてもいいことになっています。
触れることで、身体も心の痛みも和らげてくれるというとても優しい仏さまなのです。
さらに恋愛成就のご利益も期待できますよ!
前住職の西村公朝が作られたものです。
地蔵堂
愛宕念仏寺の裏には、“火伏せの神”として信仰されている愛宕山があります。
この神様をおまつりして、平安時代から京都を火災から守ってきた本地仏「火除(火伏)地蔵菩薩坐像」を安置しています。
三宝の鐘
「仏・法・僧」とそれぞれ印された三つの鐘が奏でる音で、仏の心を伝える鐘とされています。静かな山に優しく響く鐘の音はとても綺麗ですよ!
多宝塔(たほうとう)
石のお釈迦さまがおられ、沢山の仏像に囲まれています。
境内にいるたくさんの羅漢さん達に説法する姿でまつられているそうですよ。
そばには伝教大師の像。
伝教大師とは天台宗の開祖である最澄(さいちょう)のことです。
虚空蔵菩薩(こくうぞうぼさつ)|合格祈願のご利益!
多宝塔より少し上に行った境内一の高台には、境内を優しく見守る金色の「虚空蔵菩薩」さまがいます。
虚空蔵菩薩とは「広大な宇宙のような無限の智恵と慈悲を持った菩薩」という意味であり、合格祈願や知識向上、記憶力向上などにご利益がある菩薩さまですよ。
こんな変わった羅漢像も!見つけてみてね!
羅漢さんは本当に様々でユニークなものが多いです!ぜひご自身でお気に入りの羅漢さんを探してみてください!
見ているとこちらも笑顔になってしまいます!
眼光するどい羅漢さん!
これを作った方はおそらくいたずら好きですね!笑
鬼のようなお顔!
横になって休んでいらっしゃる羅漢さんも、、、
まだまだこの他にも紹介しきれないユニークな羅漢さんがたくさんいますよ!
ぜひご自身で探してみてください!
ここはアニメ「るろうに剣心」に登場した聖地!
愛宕念仏寺は実はアニメの聖地です!
アニメ「るろうに剣心」5thエンディングに愛宕念仏寺の羅漢像たちが登場しますよ!
基本情報|拝観料や御朱印、お守りなど
〒616-8439 京都市右京区嵯峨鳥居本深谷町2-5
電話番号:075-865-1231
連絡先:1200rakan@otagiji.com
拝観時間:8:00〜16:30
拝観料:300円 (小・中学生 無料)
(団体割引・10名様より一割引)
御朱印:500円
お守り:各種500円
子授けお守り:2000円
良縁成就の絵馬:1000円
行事
息災護摩供 1月第三日曜日 – 1時:火除札・十六羅漢大神通力供祈攸御札を授与。護摩木にお願い事を書いて焚きます。
天狗の宴 11月第二日曜日 – 1時:秋の紅葉祭り。千観厄除札を授与。天狗様から厄払いの御加持が受けられます。
除夜の鐘 大晦日 ‐ 深夜11時半
交通アクセス|無料の駐車場もあり!
バス:京都バス阪急嵐山駅発「62,64,72,94」系統「清滝行き」乗車→「愛宕寺前」下車 ・・・運賃は片道230円。
電車:最寄駅「京福電鉄 嵐山駅」か「JR嵯峨嵐山駅」・・駅から徒歩約30分
車:京都駅より約40分、駐車場乗用車10台分
タクシー:JR嵯峨嵐山駅北口から5分、およそ1000円
徒歩:JR嵯峨嵐山駅より約1時間
*バスは日中は1時間おきの運転ですので、時刻は予め調べておくことをおすすめします。
公式のホームページでおすすめの「嵯峨野嵐山散策コース」が紹介されていましたよ!
ここを嵯峨野めぐりの始発点として
JR嵯峨駅・阪急嵐山駅から当寺までの長い上り坂をタクシー(もしくは京都バス)で上がり
楽々・時間短縮・下り坂コースで
当寺 → 嵯峨野町並み保存地区 → 竹林 → 渡月橋 → 嵐山
と巡りましょう!
まとめ|かつては京都一の荒れ寺と呼ばれたが、、
いかがでしたでしょうか?
かつては、京都一の荒れ寺と呼ばれた愛宕念仏寺は、ひとりの住職と参拝者たちの手によって見事に再興され、今や京都一の「癒しの寺」と呼ばれるようになりました。
境内を埋めつくす石像に、時には怖いスポットのようにいわれることもありますが、様々なお顔の羅漢さんをよく見ると、どれも再興を願う人々の優しい笑顔をそのまま写したようで、きっと癒されることでしょう。
愛宕念仏寺は紅葉の穴場スポットとしてもおすすめですよ!