『愛ナビ♥』 作・春名功武

〈あらすじ〉

ある天才科学者が「愛ナビ」という装置を発明した。愛ナビは「運命の人」に導いてくれるナビゲーションシステム。博士は愛ナビのおかげで運命の女性と出会うことができ結婚した。「愛ナビ」の商品化に向けて、もう1人使用試験をしたのだが……

〈本文〉

国家は全人類のDNAデータを保管していた。DNA管理省の幹部の1人である天才科学者が、そのデータを使い密かに「愛ナビ」という装置を発明した。愛ナビは、「運命の人」に導いてくれるナビゲーションシステムである。

これを使うと振られる事も無くなるし、意味の無い片思いに時間を費やす事もなくなるのであった。悪い男や女に恋をしてしまい、いいように扱われ、捨てられるというような間違った恋愛も無くなり、使用者は運命の人と真実の愛を育めるのである。

博士は「愛ナビ」で、妻と出会うことが出来た。奥手で恋愛ベタな博士にとっては、愛ナビなしに今の幸せを手にすることは出来なかったと言えるだろう。

世の中には恋愛に臆病なヒトが大勢いる。きっと需要があるはずなのだ。

ある日、博士は友人の田辺勝を家に招いた。愛ナビを売り出す前にもう1人使用試験をしておこうと思った。田辺は恋に臆病で、今まで恋人と呼べる人ができたことがなかった。彼のような人にこそ、愛ナビが必要であり、使用試験には最適な人材であった。

「これがその愛ナビか。どうやって使うんだい」
田辺は愛ナビを手に取り色んな角度から見回していた。博士が横から電源スイッチを押してやると、愛ナビは軽やかな音を流しながら起動した。青い画面にピンクの字で「愛ナビ♥」と表示される。

博士が説明する。
「ナビゲーションシステムが起動したら、名前、性別、生年月日、血液型を入力する。そして手の平を画面に押し当てて、手相を記録するんだ。最後に本体の横に備え付けられてあるスロットを引き出して、そこを軽く嘗めてくれ。唾液からDNAを採取しDNA管理省のデータと照合するんだよ。それで、ナビ開始ボタンを押す」

田辺は言われた通りにする。すると、
〈田辺勝さん、こんにちは。愛ナビのご利用、ありがとうございます。運命の人の元へ案内を開始しますか?〉
愛ナビからはっきりとした美しい声が発せられた。
「あとはナビに従い目的地(運命の人の元)に向かえばいいだけさ。簡単だろう」
「これで運命の人に出会えるなんて、凄いね」
田辺は新しい玩具を手にした子供のように目を輝かせていた。
「どうだい。試してみてくれないか」
「もちろんだよ。これで僕も博士のように運命の人と出会って、結婚出来るってわけか。何だか夢のような話だよ」
「喜ぶのはまだ早い。装置が正常に動けばの話だからね」
「博士のことだ。正常に動かないわけがないよ」
「じゃあ、しばらくの間貸すので、上手く行ったら、連絡してくれよ」
田辺は愛ナビを大切そうに抱え、期待に胸を膨らませて帰って行った。

翌日。ちょうど仕事も休みだったので、田辺はさっそく愛ナビを使ってみる事にした。

愛ナビが発する。
〈運命の人の元へ案内しますか?〉
田辺は画面の『イエス』ボタンを押す。
〈ナビを開始します。一般道を通るルートです。交通ルールを守って走行して下さい〉
画面に地図が映り、❤マークが現れた。自宅からそう遠くない位置を指していた。こんなに近くに運命の人がいたなんて。田辺は家を出て運命の人を目指すことにした。

まだ家を出たばかりだというのに、異性に会いに行くという事を意識した田辺は、緊張で体がガチガチであった。装置を持つ手の手汗が凄くて、機械が壊れないか心配になる。

愛ナビが聞き取りやすい声で案内する。
〈その先、およそ20㍍先を右方向です〉
田辺は指示通り右方向に進む。
〈その先、およそ30㍍先、青谷橋を左方向です。2キロ以上道なりです〉
田辺はナビに従って進む。僕にも恋人が出来るかもしれない。どんなヒトだろう。綺麗な人だったらいいなぁ…。
〈その先、およそ20㍍先、信号を左方向です〉
田辺が左に曲がると、愛ナビが続けざまに言った。
〈目的地周辺です。音声案内を終了します〉

田辺は愛ナビから顔を上げると、辺りを見回す。花屋の軒先にひとりの清楚な女性が立っていた。どうやらあの女性らしい。

あれから数週間が過ぎたが、田辺からは何の連絡も無かった。愛ナビに何か不具合でもあったのか。それとも、生まれて初めて出来た恋人に浮かれて、連絡をするのを忘れているのかも。とにかく博士は田辺の家に行ってみることにした。モニター結果もそうだけど、愛ナビも返してもらわなければならないし。

博士が田辺の家を訪ねると、ひとりの女が出てきた。少し意外な気がした。その女は、ド派手なメイクをしたケツの軽そうなギャルであった。田辺には合ってない気がするが……。すぐさま、部屋の奥から田辺が出てきた。「君はもういいから」と、慌ててギャルを部屋の中に追いやる。

「あ、博士、どうも」
田辺の目が泳いでいる。
「田辺君、何故、何の連絡もよこさなかったんだ」
「あ、そ、それが…ちょっと立て込んでいて…」
「それで彼女がそうなのかね」
「いや~、その~、何といいますか…」
どうも煮え切らない返事。

どういう事だ。愛ナビが正常に動かなかったのか。博士は真相を確かめるべく、田辺を問いただした。
「田辺君、何があったんだね。愛ナビに何か不具合でもあったのかね」
「いや~、その……」
「田辺君、わたしは怒っているわけではないんだ。研究者として、愛ナビの効果を知りたいだけなんだよ。一体どういうことなんだ」
田辺はしばらく黙っていたが、観念したのか話出した。
「博士、心配しなくても、愛ナビは正常に作動した。不具合なんて全くなかった。それどころかとても素晴らしい発明品だよ」
「だったら……」
「はい、僕は愛ナビを使い運命の人を捜し出せた。僕にはもったいない程の、とても清楚で美しい女性だったよ。その女性に声を掛ければ、やっと僕にも幸せが訪れる、そう思ったよ」
「そうだ。幸せは目の前だ。あ、そうか。声を掛ける勇気がなかったのか」
「ううん、そうじゃない。声を掛けようとした時、本当にそれでいいのかと思ったんだ。運命の女性と付き合えば、一生添い遂げることになる。そうなったら、他の女性を知らずに死ぬって事だろう。何だか悲しくなってさ。だから、その前に、ちょっとくらい遊んでもいいんじゃないかと思ったんだよ」

運命の女性がいるという安心感が、彼を欲深くさせたようだ。

「遊ぶって。君は恋愛に臆病で、自ら女性に声を掛けられるタイプでもないだろう。だから、愛ナビを使ったんじゃないか」
「そうなんだけど、あんな綺麗な人が俺の運命の人だと思ったら、急に自信が芽生えてきたって言うか~、ナンパ、楽勝みたいな~、アゲアゲで行っちゃえって感じで、ポン!ポ~ン!」

今気が付いたが、田辺は以前と比べ、どことなくチャラくなっているような…肌もこんがりと焼けているし、目も茶色がかっていて、それはカラコンか。

「だけど、君は前に言っていたじゃないか。早く運命の人と結婚したいと。わたしのように」
「そうなんだけど、よくよく考えたら、最初からゴールの女っていうの、最初で最後の恋。そういうの、ご勘弁で~す、みたいな」

博士は深く溜息をついた。この装置を使い最短距離で運命の人を見付け出せたとしても、真実の愛に辿り着くのはほど遠い…

博士は「愛ナビ」の商品化を見送ることにした。

作者プロフィール

春名功武(はるないさむ)

1977年、兵庫県生まれ。2000年大阪シナリオ学校演芸放送台本科卒業。第7回テレビ朝日21世紀新人シナリオ大賞優秀賞受賞。フジテレビ『世にも奇妙な物語』の脚本を執筆。第1回日経「星新一賞」優秀賞(JBCCホールディングス賞)受賞を経て、小説家としてデビューする。2015年からアニメ「ちびまる子ちゃん」の脚本をレギュラーとして担当し現在に至る。

【問い合わせ先】

メール:i.haruna@samba.ocn.ne.jp

小説を読もう!」にて作品掲載中。

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