『生き物しりとり』 作・春名功武

〈あらすじ〉

長い行列に並ばされた男。遠くの方から聞こえる〈しりとり〉。男の行きついた先は…

〈本文〉

「リス」
「すずめ」
「めだか」
「カブトムシ」
「シマウマ」
「マントヒヒ」
「ヒョウ」
「牛」
「シカ」
「蚊」
「カモシカ」

「しりとり…か」
辺りは薄暗く、だだっ広い野原。ところどこに小さい草花が咲いている。そこに風景とは不釣り合いの真っ赤な絨毯が敷いてあり、その上を何十万人ともいえる人が一列に並んで歩いている。だいたい10人間隔で鬼が立っていて、逃げださないように見張っている。

空には薄い雲が広がっていて、真っ赤な太陽が西の方角にある。そちらに向かって歩いているようだ。もの凄く長い列だ。まるで先頭が見えない。俺は列に愛人がいないか確かめた。

妻に出張だと嘘を付き、愛人と1泊2日で温泉旅行に行くところだった。車で温泉地に向かっている途中、大型トレーラーが原因で起こった玉突き事故に巻き込まれ、温泉ではなくここに来るはめになった。

妻はこの事実を知って、さぞかしビックリしているだろう。肩身の狭い思いをしているのに違いない。悪い事をした。列には愛人の姿はいなかった。彼女は助かったみたいだ。一安心して前に進む。

「コアラ」
「ラクダ」
「ダチョウ」
「ウニ」

どのくらい前に進んだのか分からないが、殺風景な野原だったのが、木々が生い茂った森のような場所に入った。

グルグル同じ場所を回っているような気がしていたので、風景が変わりホッとした。森はより薄暗く肌寒い感じがする。木の枝に真っ赤なカラスが何羽も止まっていて、中には人骨のようなモノを咥えているカラスもいた。時折、風に乗って悲鳴のような声が聞こえてくるのが、恐怖を煽る。

森を抜けると、長い吊り橋が現れた。その下には川が流れていて、人がさ迷うように歩いている。あれが噂に聞く、三途の川か。

吊り橋を渡りきると、田んぼや畑などがあり、のどかな風景になった。そしてまた森に入り、そこを抜けると、今度は馬鹿でかいビルが何軒も建ち並ぶ街が現れた。そこにはオシャレなカフェ、ブティックなどもあり、鬼や死神がショッピングを楽しんでいる。やる事は人間と大して変わらないようだ。

旅行会社なんかもあり、『激安!2泊3日血の池地獄温泉ツアー』『針の山観戦ツアー』などと書かれた広告がお店の前に貼りだされていた。ふざけたプランだ。

「オオカミ」
「ミジンコ」
「コイ」
「イグアナ」

街を抜けると、目の前に大きくて長い階段が現れた。それをまた長い時を掛けて登ると、今度は巨大な門が見えてきた。門には『ようこそ!生まれ変わりの門』と仰仰しく書かれていた。

俺は生まれ変われるのか。この列の先にはもっと恐ろしい事が待っていると思っていた。天国行きでも地獄行きでもない中途半端な人生をおくった者は、生まれ変わって、もう1度人生をチャレンジしろと言う事か。

門をくぐると宮殿のような建物の中に入る。まだ列は長く続いていた。建物の内側に沿って螺旋状の階段を下っていく構造になっていた。下を覗くと列の先頭が見えた。俺はそれを見てゾッとした。完全に忘れていた。BGMのように聞こえていた「しりとり」の存在を。

列の先頭の人間がマイクに向かって「しりとり」を答えている。ちょうど若い男が「蝶」と答えたところであった。もの凄く図体のデカイ鬼がイスに腰掛けてその「しりとり」を聞いている。あれがえん魔大王だろうか。

若い男は答え終わると1歩前に進む。すると髪の毛を7・3に分け、眼鏡を掛けた、1㍍ぐらいの小さな鬼が、体の何倍もある大きな両手で男の体をバチンと挟み、潰してしまった。

俺は思わず息をのんだ。鬼はその手で男の体をグチャグチャにしたかと思うと、まるで飴細工を作るように器用な手付きで蝶を作り上げた。

その男は蝶の姿で現世に戻されるのだろう。門をくぐって、この状況を知ったものは、皆呆気に取られている。こんな馬鹿げた事で次の人生を決められるなんて、やりきれない。

ルールはとてもシンプルで、しりとりで生き物を答えるだけである。既に出た生き物や「ライオン」のような「ん」が付いた生き物を答えても失格にはならない。

ただ、答えられなかったり、生き物以外や意味不明なモノを言った場合は地獄に落とされるシステムらしく、センサーが鳴り響き、死神に強制的に連行されていく。

宮殿に入ってからはある程度の私語は許された。人間を一瞬のうちに別の生き物に変えてしまうパフォーマンスを見て、どこかみんな楽しんでいた。まだまだ列は長いので、自分が当事者だという事を忘れてしまうのだろう。

俺もそうであった。楽しんでいた。美人でスタイルも良く、生きている時は女優かモデルをしていたような女性が、気取った感じでマイクの前までやってきて、しりとりで「ミミズ」と答えると、あっという間にミミズにされてしまう。「気取っていたくせにミミズかよ」と、場内に爆笑が起こる。列の中には手を叩いて大笑いしている女性もいるぐらいだ。

何十人も「蚊」や「ヌー」が続くと列からブーイングが起こる。

そうそう見られない「トキ」や「イリオモテヤマネコ」「オオサンショウウオ」など特別天然記念物の名前が出てくると「オゥ~」と歓声が上がったりもする。

そして、場内が割れんばかりに盛り上がるのは、やはり「人間」と答えた時だ。歓声、拍手、ウエーブなんかも起こる。首に首吊り自殺のロープの痕をつけたままここに来た奴も、周りに負けないぐらいの歓声を上げている。

だけど、盛り上がっていられるのも前にまだ大勢いればこそで、30人ぐらいになると焦り始める。そうなると、逃げ出したり、暴れ出す者もいるが、地獄に連れて行かれるまでだ。

そういえば俺もずいぶん前の方まで来た。前にはもう8人しかいない。「人間」と言えれば最高だが、「犬」や「猫」など人間に可愛がられる生き物でも御の字だろう。

緊張感が高まり、今にも心臓が飛び出しそうなほどドキドキしている。実際にはもう死んでいるから、心臓は微動だにしていないが。

あと、前に6人。
「トラ」
「ラマ」
「マンボウ」
「ウミウシ」

あと、前に2人。俺は心の中で「人間!」「人間!」「人間!」「人間!」と何度も願った。

「シロクマ」
「マントヒヒ」
よし、俺だ。
『      』

作者プロフィール

春名功武(はるないさむ)

1977年、兵庫県生まれ。2000年大阪シナリオ学校演芸放送台本科卒業。第7回テレビ朝日21世紀新人シナリオ大賞優秀賞受賞。フジテレビ『世にも奇妙な物語』の脚本を執筆。第1回日経「星新一賞」優秀賞(JBCCホールディングス賞)受賞を経て、小説家としてデビューする。2015年からアニメ「ちびまる子ちゃん」の脚本をレギュラーとして担当し現在に至る。

【問い合わせ先】

メール:i.haruna@samba.ocn.ne.jp

小説を読もう!」にて作品掲載中。

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