『パパはサンタクロース』 作・春名功武

〈あらすじ〉

12月最初の日曜日に一通の妙な手紙が届いた。封筒を破って中を覗くと、便箋と千円札が3枚入っていた。

〈本文〉

12月最初の日曜日。3歳の息子はオモチャ屋の広告に魅入っていた。クリスマス前になると、どこの家庭でもよく見られる光景だろう。

そしてその日、私宛に一通の妙な手紙が届いた。封筒に差出人は書かれておらず、代わりにクリスマス模様が入っていた。どうせどこかのクリスマスセールの案内状だろうと安易に考えていた。

ビリビリと封筒を破って中を覗くと、便箋と千円札が3枚入っていた。新手の送りつけ商法かと思ったが、現金を送り付けるようなリスキーで馬鹿な詐欺師はいないだろう。どうも様子が違うようだ。

便箋は2枚にも渡り、達筆な文字で丁寧に書かれてあった。私はゆっくりと読み始めた。手紙を読み終えると、すぐさまライターで火をつけて燃やした。燃えゆく炎を見詰めながら、ふと幼い日のことを思い出した。

25年前。12月24日の夜。
「早く寝なさい。夜更かしする子には、サンタさん来ないわよ」
まだ眠たくなかったことを覚えている。それでもこの日ばかりは、良い子でいなくてはいけない。僕は自分の部屋に行きベッドにもぐった。高ぶる気持ちを抑えて必死に目をつぶったが、時間が刻々と過ぎていくばかり。

それでも12時を過ぎるとだんだんと瞼が重たくなり、夢の世界へと導かれる。その時だ。ガチャッと部屋のドアが開いた。サンタさんがきた。僕の意識はいっぺんに現実の世界に引き戻されていった。

薄目を開けて扉の方に目を動かすと、酔っ払って顔を赤くしたパパがそこにいた。パパは忍び足で枕元にクリスマスプレゼントを置いた。僕は見てはいけないものを見てしまった気がした。そしてサンタクロースはいないという残酷な現実を知ってしまった。

どこにでもあるくだらない記憶。ショックだったというより、気まずい思いをしたのを覚えている。あれが誤解だったとは。私は燃えゆく便箋を見詰めた。

拝啓
年の瀬も押し迫ってまいりました。ご家族の皆様には益々ご清祥のことと存じます。初めに、行き成りのお手紙で驚かせてしまった事、お詫び申し上げます。

わたくし、サンタクロースと申します。この度はお願いがございまして筆を取らせて頂きました。年々子供が増加し、私一人の力では一晩の内にプレゼントを配って回る事が不可能な時代となりました。また、流行の移り変わりも早く、老いた私にはお子様の欲しい物が到底分かりません。そこで世界中の親御さまに、私に代わってサンタクロースになって頂き、お子様にプレゼントを渡して頂きたく思っております。つきましては、同封しました三千円で、プレゼントを買って頂き、二十四日の夜にお子様の枕元に置いて頂けないでしょうか。くれぐれもお子様に姿を見られないようお願い申し上げます。

下記の通り、来年以降のプレゼント予定金額を記させていただきましたので、ご確認下さいませ。

【年齢別プレゼント予算一覧】
3~5歳    3千円
6~8歳    5千円
9~11歳   8千円
12歳以上   1万円

最後になりましたが、機密保全の為、この手紙を読み終えましたら必ず火を点けて燃やして下さい。年末のお忙しい中、誠に恐縮ではございますが、何卒宜しくお願い申し上げます。

敬具

ジリジリと燃えゆく灰皿の中の便箋を見詰めていると、細く立ち昇る白い煙が、髭をたっぷりとたくわえたサンタクロースの顔を描いた。

私は便箋が灰になったのを確認すると立ち上がり、空気を入れ替えようと窓を開けた。空を見上げると、澄んだ青い空が広がっていた。息子がオモチャを決めたのか、広告を持って私の元へ走って来る。

どこからか、トナカイの鈴の音が聞こえたような気がした。

作者プロフィール

春名功武(はるないさむ)

1977年、兵庫県生まれ。2000年大阪シナリオ学校演芸放送台本科卒業。第7回テレビ朝日21世紀新人シナリオ大賞優秀賞受賞。フジテレビ『世にも奇妙な物語』の脚本を執筆。第1回日経「星新一賞」優秀賞(JBCCホールディングス賞)受賞を経て、小説家としてデビューする。2015年からアニメ「ちびまる子ちゃん」の脚本をレギュラーとして担当し現在に至る。

【問い合わせ先】

メール:i.haruna@samba.ocn.ne.jp

小説を読もう!」にて作品掲載中。

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