〈あらすじ〉
交通事故で妻と娘を失った主人公は、タイムマシンを盗み出し二人を救おうと考えたのだが…
〈本文〉
深夜。ワタシはある研究施設に忍び込み、タイムマシンを盗み出そうとしていた。正直、ここに来るまでは眉唾物だと思っていたが、さきほど何もない空間から眩い光が発せられると、次の瞬間どこからともなく車型のマシンが現れたのだ。まさかこの世に、本当にタイムマシンがあるなんて。
これで妻と娘を救う事ができる。半年前。妻が運転する軽乗用車とトラックが正面衝突し、妻と同乗していた娘はこの世を去った。事故の原因は、トラック運転手の脇見運転だった。愛する家族を奪った憎き相手も、事故で死亡した。やり場のない悲しみと怒りだけが残った。
タイムマシンの運転席に座ったワタシは、右側に設置された液晶ディスプレイと向き合う。タッチパネルとなっており、行先を『年』・『月』・『日』・『時』・『分』と入力して設定するようになっている。未来でも過去にでも行けるようだ。
妻が事故に合う日を打ち込むが、ふと手が止まる。頭の中に、交通事故被害者家族の会で出会った人たちの顔が浮かんだ。
月に一度開かれる交通事故被害者家族の会。同じ境遇の者たちが集まり、失った家族への想い、今置かれている自分の辛さなどを発表する。ワタシも友人の勧めで参加するようになり、孤独を慰められ、励まし合って、前を向いて生きていけるようになった。
彼らがいなかれば、悲しみと怒りの渦に飲み込まれ、廃人のようになっていたかもしれない。自分だけが家族を取り戻し、救われるなんて。
同じ境遇で苦しんでいる人たち全員を救う事こそが、自分の使命ではないのか。しかし、いつ研究施設の者に気付かれるか分からないから、タイムマシンを使えるのは一度きりかもしれない。
しばらく頭を絞ったワタシは、ある計画を思い付いた。スマートフォンを取り出し、検索する。
検索結果を液晶ディスプレイに『年』・『月』・『日』・『時』・『分』と順番に入力して、キーを回しエンジンをかける。車型タイムマシンは、ゆっくりと車庫から出ると、目の前に広がる滑走路へ滑りだす。
タイムマシンは急加速し、ピカーッ!と眩い光を発すると、次の瞬間、跡形もなく消え、遠い過去へと旅立っていった。
1769年。タイムマシンを町外れにある茂みの中に停車させたワタシは、ある男を探し町に向かった。
町に着くと早速聞込みを始める。この辺りでは、男は変わり者として有名なようだ。名前を出すと、たいがいの者は知っており、すぐに居場所を突き留められた。
住宅街の一角にある庭付きの一軒家。夜になるのを待ち、裏口から忍び込んだ。
目当ての男は、書斎の机に向かって、何やら図面のようなものを書いているようであった。ワタシは足を忍ばせ、ゆっくりと背後に回った。そして予め用意しておいたロープを男の首にかけると、一気に締め上げる。大義名分があるとはいえ、人をひとり殺す事に躊躇いはあった。気を抜くと我に返り怖気づいてしまいそうになる。だけど…
こいつさえいなければ、多くの者が救われるのだ。そう言い聞かせて、ロープに力を込める。これは正義、正義なのだ。
こいつは、現在の車の原型になったといわれる、蒸気で走る自動車を発明する男だ。この男がいなければ、この世に車は存在しなかったとまで言わしめる、車の生みの親である。
年間3千人を超える人が交通事故でこの世を去っていく。車なんかがあるからだ。こいつさえ、いなければ~。
念の為、家に火をつけ図面なども処分する事にした。燃え盛る家から出たワタシは、タイムマシンを隠してある茂みへと足早に向かう。とっととこの時代から去ってしまいたかった。しかし…
ない、ない、ないぞ。懐中電灯の明かりで茂みの中を照らして見ても、何処にもタイムマシンがない。どういう事だ。レッカーされたのか…。まさかなぁ…。
茂みの中を探し回っているうちに、タイムマシンがどんな形だったか分からなくなっていた。頭の中から、何かがすっぽり抜け落ちている気がする。
あれは、なんという形だった?何型のタイムマシンだった?まるで思い出せない。
終
作者プロフィール
春名功武(はるないさむ)
1977年、兵庫県生まれ。2000年大阪シナリオ学校演芸放送台本科卒業。第7回テレビ朝日21世紀新人シナリオ大賞優秀賞受賞。フジテレビ『世にも奇妙な物語』の脚本を執筆。第1回日経「星新一賞」優秀賞(JBCCホールディングス賞)受賞を経て、小説家としてデビューする。2015年からアニメ「ちびまる子ちゃん」の脚本をレギュラーとして担当し現在に至る。
【問い合わせ先】
「小説を読もう!」にて作品掲載中。
前回のコラムはこちら↓
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