『ひいき目で見た白雪姫』 作・春名功武

〈あらすじ〉

白雪姫は本当に美しかったのだろうか?ひいき目で見ていたのではないだろうか…。誰もが知る白雪姫の物語をコミカルにアレンジしました。

〈本文〉

むかしある城に白雪姫という、ひいき目で見て、美しいお姫様が住んでいました。

ある日、白雪姫の母上が亡くなってしまい、新しい王妃様がお城に来ました。ところが、この王妃様はとても恐ろしい魔女だったのです。

王妃様は、自分こそが世界で一番美しいと信じていました。そんな彼女は毎朝、秘蔵する魔法の鏡に問うのでした。
「世界で一番美しいのは、だあれ?」
「それは、ひいき目で見て、王妃様です」と鏡は答えました。
「……」
釈然としない部分はありますが、王妃様は満足な日々を送っていました。

そんなある日、王妃様がいつものように魔法の鏡に「世界で一番美しいのは、だあれ?」と聞くと、魔法の鏡は「それは、ひいき目で見て、白雪姫です」と答えたのでした。

怒り心頭の王妃は「いやいやいや。おい!鏡!おまえは私の所有物なんだから、白雪姫をひいき目で見るのはおかしいでしょう。ひいき目で見るなら、私じゃなきゃ。いや、だからって、ひいき目で見て私、と言われるのもどうかと思うけどね。前から思っていたんだけど」
と、鏡にネチネチと言うのでした。

兎にも角にも、王妃様は白雪姫のひいき目で見た美しさをねたみ、家来に姫を殺すように命令しました。

命が狙われている事を察した白雪姫は、森の中へ逃げ込みます。そして7人のコビトに出会いました。
「あら、あなた達はコビトさんね」
「そういうあんたは、白雪姫だな。これは、これは、噂に聞いた通り、ひいき目で見たら、美しい」
「……」
研究熱心のひとりのコビトは、白雪姫の顔をまじまじと見て、気づいたように言います。
「俺、さっきまではひいき目で見てなかったから、正直そうでもないなぁと思っていたんだけど、試しにひいき目で見てみたんだ。そしたら、美しいと思ったよ」
「どれどれ」と、好奇心旺盛のコビトが白雪姫に視線を向けます「あ、本当だ。ひいき目で見るようにしたら、美しいよ」
「そうだろう。白雪姫を見る時は、絶対、ひいき目で見る事をお勧めするよ」
「なるほどなぁ。興味深い。ひいき目で見なかったら美しいとはいえないが、ひいき目で見たら絶世の美女に変わる。よしみんな、改めて、白雪姫をひいき目で見てみようぜ」
コビト達は白雪姫を囲みまじまじと見詰めました。
「これは美しい!ひいき目で見てだけど」
「……」

こうして、白雪姫は森で暮らす事になりました。

白雪姫と7人のコビトは、ひいき目で見たら友達に見えなくもなく、ひいき目で見たら楽しく暮らしているようにも見えました。

一方、執念深い王妃は、白雪姫が森に逃げ込んでいる事を知ると、再び姫を殺そうと魔法を使って毒リンゴを作りました。

王妃は魔法で、ひいき目で見て老婆に見えなくもない姿に化けました。そして毒リンゴを持って森へ出かけます。

王妃はコビト達の留守を狙い、白雪姫に近づきます。
「こんにちは、お嬢さん」
「あ、こんにちは…お、お婆さん?え、お婆さんでいいんですよねぇ。お爺さんだったらごめんなさい。よく、分からなくて」
「あ、一応、お婆さんです。そんな事よりお嬢さん、リンゴはいかが?」
と、王妃がリンゴを差し出します。
「まぁこれは、ひいき目で見て美味しそうなリンゴですね。初対面でひいき目に見るのもおかしいか。エヘッ」
「……」
「ちょうどお腹が空いているので、いただくわ」

こうして、ひいき目で見て美しい白雪姫は、ひいき目で見て美味しそうなリンゴを口にしました。
「うん、うん、ひいき目で言うと、まぁまぁ美味しい」
「……」

コビト達が住み家に帰ってくると、毒リンゴを食べた白雪姫が横たわっていました。コビト達は慌てて駆け寄ります。
「ひいき目で見て美しい白雪姫!」「ひいき目で見て美しい白雪姫!」「ひいき目で見て美しい白雪姫!」何度も呼びかけても白雪姫はビクともしません。

「これは、ひいき目で見ても、死んでいる」

そして、彼女のひいき目で見た美しさを惜しみ、埋葬することなく、ひいき目で見て美しいガラスの柩に安置する事にしました。

そこへ、白馬に乗った王子様が通りかかりました。王子様の見た目は、もちろんひいき目で見て、ハンサムとは言えなくもないのでした。

王子様は、ガラスのお棺に入った白雪姫を見て「これは、初対面だけど、あえて、ひいき目で見ると、美しい人だと言えなくもない」と言うと、思わず白雪姫に口づけをしました。

コビト達はそんな様子を見て「これは、ひいき目で見ても強制わいせつ罪じゃないか」「ああ、ひいき目で見ても6か月以上10年以下の懲役じゃないか」など口々に言いました。

すると、息絶えたはずの白雪姫が息を吹き返しました。

王妃がリンゴに施した毒は、口にしたものを殺すのではなく、永遠の眠りにつかせるという、ひいき目で見ても何とも中途半端な仕打ちでありました。またキスで毒の効果が打ち消されるとは、ひいき目で見ても、王妃には乙女で可愛らしい部分がないとは言えないのでした。

こうして、ひいき目で見ると美しい白雪姫と、ひいき目で見るとハンサムな王子様は結ばれました。そして王子の国で末永く幸せに暮らしました。

ひいき目で見みて、めでたし、めでたし、と言えなくもないのでした。

作者プロフィール

春名功武(はるないさむ)

1977年、兵庫県生まれ。2000年大阪シナリオ学校演芸放送台本科卒業。第7回テレビ朝日21世紀新人シナリオ大賞優秀賞受賞。フジテレビ『世にも奇妙な物語』の脚本を執筆。第1回日経「星新一賞」優秀賞(JBCCホールディングス賞)受賞を経て、小説家としてデビューする。2015年からアニメ「ちびまる子ちゃん」の脚本をレギュラーとして担当し現在に至る。

【問い合わせ先】

メール:i.haruna@samba.ocn.ne.jp

小説を読もう!」にて作品掲載中。

前回のコラムはこちら↓

『衝撃!!うさぎは寂しいと死ぬ!?』 作・春名功武

2020年9月23日