『ぱぁ~ぴゅるるる♪』 作・春名功武

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〈あらすじ〉

ジャングルで暮らすスカンクの群れの中に、出来の悪い1匹のスカンクがいました。彼のこくオナラは、他のスカンクのオナラとはまるで違っていました。変なのです。

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〈本文〉

ここはジャングル。いつ敵に襲われるか分からない危険な場所。動物たちはいつもピリピリとしていました。

そんなジャングルの一角にスカンクの群れが生息しています。その中の1匹に出来の悪いスカンクがいました。スカンクの唯一の武器といえるオナラが、彼のだけ他の者とはまるで違っていました。変なのです。仲間は、頭を悩ませていました。

「いいか、みてろよ。体内にあるガスをおしりに集め、いっきに出す」
1匹のスカンクがおしりをピンと突き出し、手本を見せます。ブー。

周囲に鼻がもげるほどの強烈な悪臭が広がります。臭いに鈍感なスカンクたちは平気ですが、どんな猛獣もこの臭いを嗅ぐと、逃げ出さずにはいられません。

出来の悪いスカンクも教わった通りにやってみます。おしりをピンと突き出し、体内にため込んだガスをおしりに集め、いっきに出す。ぱぁ~ぴゅるるる♪変てこで愉快な音がします。

「どうしてそうなるんだよ」
「ホントみっともない音だな」
「それに、臭いも何だか俺らと違うんだよなぁ。こんなんじゃ、この厳しいジャングルを生き抜いていけないぞ」

スカンクたるものオナラをこく事は、物心付く頃には自然と身についているもので、どうして彼だけが出来ないのか、みんな不思議でなりません。

「さ、練習あるのみだ。せーの」
ぱぁ~ぴゅるるる。
「もう一度。せーの」
ぱぁ~ぴゅるるる。
「せーの」
ぱぁ~ぴゅるるる。

これはなかなか手こずりそうです。教える方にも熱が入ります。

「体勢が良くないのかもしれないなぁ。足をもう少し開いて、両ひざを軽く曲げる。そしておしりを高く突きあげる」
彼は言われた通りにやってみます。
「そうそう、そんな感じ。その体勢のまま、体内にあるガスをおしりに集める。この時、ガスの動きをイメージする事が大事だぞ」
目を瞑り、イメージを膨らませます。
「集まったな、と思ったら、おしりを解放させ、いっきに力を込めて出す」
プルプルと肛門を震わし、彼はオナラをします。

ぱぁ~ぴゅるるる♪

「ああ~、くそぉ。駄目か」
仲間たちはガックリ肩を落とします。

「ごめん」
彼は申し訳なさそうに言いました。何故自分だけ出来ないのか、情けなく惨めでなりません。

それからも何度となく試みましたが、いっさい上達はしませんでした。
「何で出来ないのかさっぱり分からない」
「体に異常があるんじゃないか」
「それか…お前、目立ちたいからわざとやってるんじゃないだろうな」
「違うよ。そんなわけないじゃん」
「じゃ何で出来ないんだよ」
「分からないよ」
「これ以上続けても無理かもな」
「ああ、そうだなぁ。やるだけ無駄だよ」
仲間たちはお手上げ状態でありました。その場に諦めムードが広がります。

それから間もなくして、仲間たちは彼を不気味に思うようになりました。関わるのを拒み、遠ざけるようになっていきます。

そんな空気を察した彼もまた、みんなに近づかなくなり、群れから少し離れた場所で、ひとりで暮らすようになりました。その頃から、彼は一切オナラをしなくなりました。奇妙な音を聞くと惨めになるので、出そうになっても我慢しました。

そんなある日。ハイエナの家族が、スカンクの生息する場所を見つけました。久しぶりの食事にありつけると、よだれを垂らし近づいてきます。

スカンクたちは素早く隊列を組み攻撃の準備に取り掛かります。向かってくるハイエナにおしりをピンと突き出し、照準を合わせます。

しかしハイエナは、オナラを出させまいと素早く動きます。鋭く尖った爪、血生臭い牙で、容赦なく襲い掛かっていきます。片手で鼻を塞ぎ防御にも抜かりありません。見事な戦略で、スカンクの群れを追い詰めていきます。

出来の悪い彼は、少し離れた場所にいたので、襲撃から逃れることができました。襲われる群れを横目にその場を離れていきます。キャ~、助けて~。群れの方から、仲間の断末魔の叫び声が聞こえてきます。

知らないよ。僕には関係ないよ。僕を仲間外れにするからだ。罰が当たったんだ。ざまあみろ。しかし…

仲間を見捨てるはずだったのですが、彼は群れの近くまで戻ってきていました。身をかがめ生い茂る雑草の中に隠れています。優秀なスカンクならば、ここからオナラを出して、ハイエナを追い払えるでしょうが、まともにオラナがこけないので、遠距離攻撃は使えません。

僕に何が出来るというのだ。何で戻ってきたんだ。どうして逃げなかったんだ。僕はどうかしているよ。

ハイエナたちは、傷ついて倒れているスカンクを一か所に集めて、食事の準備に取り掛かります。

このままでは、数分後には仲間の無残な姿を見る事になってしまいます。仲間外れされたけど、みんなには死んでほしくありませんでした。だから戻ってきたのです。やけくそになった彼は、ハイエナたちの前に飛び出しました「ま、待て」。血走ったハイエナの目が彼に向けられます「まだいたのか」。

スカンクたちは、助けが来た事に一瞬歓喜しましたが、彼の顔を見るなり、肩を落としました。諦め死を覚悟する者もありました。まともにオナラもこけないあいつに助けられるはずがない。もう終わりだ。助からない。全滅は免れないだろう。でも何であいつは助けにきたんだ。死ぬかもしれないというのに。仲間外れにした俺らの事なんか置いて逃げれば良かったのに。とことん馬鹿な奴だ。

ハイエナたちは舌なめずりしながら、彼を取り囲みました。たった1匹のスカンクに何が出来るのだ。鼻も塞がず、嘗め切っていました。

日の光が反射して不気味に光る爪。よだれが滴る鋭くとがった牙。ハイエナたちがずりずりと近寄ってきます。絶体絶命であります。

ああ~、どうしよう、どうしよう。だ、誰か…助けて~。助けにきたのに助けを求めるありさまです。

ハイエナたちが一斉に飛び掛ってきました。もうやるしかありません。彼はおしりをピンと突き出し、ハイエナの顔に照準を合わせます。あれこれ悩んだところで、スカンクに出来ることはこれしかないのです。

油断しきっていたハイエナたちは、慌てて鼻を塞ごうとしましたが、間に合いません。彼の方が一瞬早かったのです。体内にあるガスを命一杯おしりに集めて、いっきに出します。

ぱぁ~ぴゅるるる……♪

はて?何だ?ハイエナたちは不意を突かれたようです。鼻を塞ぐのも忘れ、あっけにとられきょとんとしています。次の瞬間……
「ブッ……アッハハハハハハ」
誰からともなく、笑い出しました。
「何だよこれ。変な音。ぱぁ~ぴゅるるるだって。これがオナラかよ…アッハハハ」
「わ、笑っちゃ駄目よ。真面目にやってんだから…プッ…プッ…プッ…」
「いや~、こりゃ最高だ。ピリピリした張り詰めた空気からの、ぱぁ~ぴゅるるるだぜ。まさに、緊張と緩和。誰だって笑うよ。アッハハハ」
手を叩き大爆笑します。

ぱぁ~ぴゅるるる……♪ぱぁ~ぴゅるるる……♪ぱぁ~ぴゅるるる……♪

ずっとオナラを出すのを我慢していたので、一度出始めると止まりません。周囲にオナラの臭いが充満していきます。

ハイエナたちは、オナラの臭いが鼻の穴に入り込んできて、しまった、と顔付きが変わり焦ります。だがしかし……

「あれ?なにこれ?」
ハイエナたちは首を傾げます。何だか様子が違うようです。恐々、鼻をクンクンさせてさらに嗅いでみました。

「これ、臭くないぞ」
「本当だ。臭いどころか、良い香りじゃないか」
「そうね。何だかハーブの香りとローズのようなフローラルな香りがするわ。ううん、それだけじゃないわ。甘く爽やかなオレンジスイートの香りもする」
「何だかこの臭いを嗅いでいると、癒されないか」
「うん、体から力が抜けて、リラックスするわ」
「そうだなぁ。ハッピーな気持ちになるよ」
「ああ~、最高~、癒される」

ハイエナたちは完全に戦意を失い、横になりました。中には無防備にお腹をさらけ出し仰向けになる者もいました。

一方、スカンクたちは何が起こったのか意味が分からず、目をパチクリさせています。

ぱぁ~ぴゅるるる……♪ぱぁ~ぴゅるるる……♪ぱぁ~ぴゅるるる……♪

彼のオナラは制御不能となり出続けています。

ぱぁ~ぴゅるるる……♪ぱぁ~ぴゅるるる……♪ぱぁ~ぴゅるるる……♪

オナラは風に乗り、ジャングル一帯に広がっていきます。

それは、草原を時速100㌔のスピードで獲物を追いかけているチーターのもとにも届きました。

オナラの臭いを吸い込んだチーターは、さっきまでの厳つい顔付きが、嘘のように穏やかな顔に変わりました。ぱったりと獲物を追いかけるのをやめると「何だこの臭い」と目一杯オナラを吸い込みます。スー、スー「ああ~、何だか幸せな気分になるぞ」すっかりリラックスしたのか、無防備にお腹をさらけ出し仰向けになります。

ぱぁ~ぴゅるるる……♪ぱぁ~ぴゅるるる……♪ぱぁ~ぴゅるるる……♪

またオナラは、川の中で小鹿を待ち構えているワニのもとにも届きました。

水面に出た鼻先から臭いを吸い込んだワニは、まるで温泉に浸っているかのように、体の力がぬけて、うっとりします「ああ~、心と体が癒される~」そして水面に浮かびあがると、無防備にお腹をさらけ出し仰向けになりました。お腹の上を小鹿が渡っても、襲い掛かろうとはしません。小鹿が川に落っこちないようじっとして気まで使うありさまでした。

ぱぁ~ぴゅるるる……♪ぱぁ~ぴゅるるる……♪ぱぁ~ぴゅるるる……♪

オナラは、百獣の王ライオンVSアフリカ象の命を懸けた頂上決戦の場にも届きました。

険しい顔で威嚇する両雄でしたが、鼻の穴にオナラの臭いが流れ込んできた途端、いがみ合っていた事が馬鹿らしくなりました。お互いに歩み寄り、顔と顔をスリスリさせるのです。挙句の果てに、ライオンもアフリカ象も無防備にお腹をさらけ出し仰向けになりました。

一方、出来の悪いスカンクの彼は、困り果てていました。オナラはさらに勢いを増し、とめどなく出るのです。

ぱぁ~ぴゅるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるる♪

「だ、誰か、止めて~」

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作者プロフィール

春名功武(はるないさむ)

1977年、兵庫県生まれ。2000年大阪シナリオ学校演芸放送台本科卒業。第7回テレビ朝日21世紀新人シナリオ大賞優秀賞受賞。フジテレビ『世にも奇妙な物語』の脚本を執筆。第1回日経「星新一賞」優秀賞(JBCCホールディングス賞)受賞を経て、小説家としてデビューする。2015年からアニメ「ちびまる子ちゃん」の脚本をレギュラーとして担当し現在に至る。

【問い合わせ先】

メール:[email protected]

小説を読もう!」にて作品掲載中。

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