『The年齢』 作・春名功武

〈あらすじ〉

アイドルの女性が年齢詐称疑惑の謝罪会見を開いていた。テレビで会見の様子を見詰める主人公のフトシ。この時代、年齢の概念は大きく変わっていた。

〈本文〉

テレビ画面では、アイドルの女性が謝罪会見を開いていた。世間を騒がせている、年齢詐称疑惑についての会見だ。

アイドルの女性は、普段なら髪の毛を二つに束ねメイド風のフリフリコスチュームといったスタイルだが、謝罪会見では髪の毛もおろし、タイトな黒いスーツを着ている。

隣には彼女の担当マネージャーらしき人物が座っている。何度か記者席が映り込む場面があり、大勢の記者が集まっている事が分かる。

「あなたはずっと17歳だと偽っていたわけですが、実際の年齢はいくつなんです?」
記者のド直球な質問がアイドルに向けられる。

アイドルは俯いたまま黙っている。泣いているようにも見えた。記者たちはあからさまにうんざりした態度をとった。謝罪会見まで開いて、肝心なところはうやむやにするのはよくある事だ。

会場の雰囲気が悪くなったのを見て、隣にいた担当マネージャーが代わりに答えた。
「年齢の方は、実際に見て頂こうと思います」
会場はドッと沸いた。

謝罪会見をテレビで見ていたフトシは、勇気のある行動だとは思ったが、少し可哀そうな気もした。彼女に非があるとはいえ、そこまでする必要があるのだろうか。ぼくなら恥ずかしくてたまらない。

おびただしい数のカメラのフラッシュの中、アイドルは用意された体重計の前に移動する。

いざ体重計を前にすると、アイドルは怖くなったのかためらった様子だった。だが、その場にいる記者たちの眼差しに追い詰められ、観念したように体重計の上に乗った。

体重計の画面はカメラを通してテレビ画面に映し出される。数字がみるみる上がっていき、計測が完了する。体重《58・4㌔》と表示された。

記者たちの失笑がテレビから伝わってきた。そしてついにお待ちかねの年齢である。

体重計の画面には、測定中を知らせるマークがグルグルと回っており、まるでドラムロールが鳴っているようでもあった。

計測が完了する。会場がどよめく。17歳と公表していた彼女の年齢は《38歳》と表示された。21歳もサバを読んでいたという事になる。

記者たちの追及はさらにヒートアップしていき、絶えられなくなったアイドルは、真っ赤な顔をしてその場に座り込んでしまう。
「私…私…永遠の17歳だもん」
甘ったるい声で子供じみた発言をする。

17歳の少女なら可愛らしく映るかもしれないが、38歳のアラフォーにはちゃんとした釈明が求められる。

フトシは画面に映るアイドルの体を改めて見た。体型を隠すフリフリの衣装では分からなかったが、タイトな黒のスーツではポッコリとした下っ腹が目立つ。スカートから覗く太腿は、丸太のようであった。

これまで17歳で通してこられたことの方が不思議でならない。フトシもさすがに自業自得だなと思った。

数年前なら、年齢といえば生まれてから経過した年数を表していた。この時代では年齢といえば、体年齢になる。このアイドルも、生まれてからの年数で言えば17歳だから、お気の毒である。生まれて来る時代がもう少し早ければ、年齢詐称にはならなかったのに。

現在、年齢制度を変革しようと動いている団体も少なからずいる。美容業界が肌年齢を実年齢に推進しようとしているが、他業種から賛同が得られてない状況で停滞している。また幼児性の強い大人が集まり、精神年齢を実年齢にしようと活動をしていたが、強い反発を受けて叩かれている。当分は体年齢のままだろう。

フトシはリモコンでテレビの電源を切ると、テーブルの上に置いてあったタブレットを手繰り寄せ、求人サイトにアクセスする。

条件を入れ込み、業種を選択する。働かせてくれるところがあればどこでも良かったが、一応今までの経験を活かせる『軽作業・技術・製造』のページをアクセスした。

求人件数は634件ヒットしたが、この中に彼を受け入れてくれるところがいくつもないのが現状である。

株式会社○○機械工業の求人を開く。仕事内容、部品製造及び機械組立。給与、正社員/22万円~40万円。勤務時間8時~17時。完全週休二日制。年末年始、夏季休暇あり。社会保険あり、未経験者大歓迎、交通費支給。

なかなかの好条件であったが、応募資格の年齢の欄を見ると《18歳~50歳位》となっていた。フトシはガックリと項垂れる。

634件全ての求人をチェックして、年齢制限のない企業に応募はしたが、書類審査で落とされるのは目に見えている。

年齢制限がないといっても、55歳のフトシを雇ってくれるような良心的な企業はなかなかないのが現実だった。企業側としても体力のある若い体を求めているのは明白である。

台所で大好きなスナック菓子とチョコレートと炭酸飲料水を調達すると、リビングで食べる事にした。求人探しは、ストレスでしかない。ストレスは体によくないから、発散しなくてはならない。甘いお菓子と塩辛いお菓子は、交互に食べると永遠に食べ続けられる。

母親の車がガレージに停車する音が聞こえたので、フトシは慌てて食べかけのお菓子を持って自室に入っていく。こんな姿を見られたら、何を言われるか分からない。今では、母親の年齢を超えてしまっているので、年下にグチグチ言われたくなかった。

明くる日。ショップチャンネルで注文した品が届いた。〈脂肪燃焼フィットネス振動マシン〉マシンの上に1日たった10分乗るだけで、1カ月で10歳も若返るという話題の若返り器具である。

フトシは箱から取り出して、早速試してみることにした。フトシの体中についた脂肪が大きく上下左右に揺れ、燃焼を促進する。

フトシはこれまで様々な若返り器具を試してきたが、どれも長続きしなかった。だけど今回はやれる気がしていた。マシンに乗るだけというのが、面倒くさがりで、怠け者の自分には合っていると期待が持てた。

1日10分で、1カ月で10歳若返る。2カ月後には35歳になっているという計算だ。30代といえば、油の乗った働き盛りの年齢。

フトシはスリムでヤングになった自分の姿を頭の中に思い描いた。どこの企業でも雇ってもらえるに違いない。それだけではない。女性と付き合う事も出来るかもしれない。結婚だって夢じゃないぞ。それに冬に汗をかく事もなくなるし、憧れの細身のデニムだって履ける。股ズレともおさらばだ。お腹の肉が邪魔して履くのに苦労していた靴下も、簡単に履けるようになるかも。フトシは絶対若返ってやると決心した。

しかし3日後、フトシはマシンに乗るのをやめた。ある計画を思いついたのだ。

フトシは母親にカロリーの高い食事を作ってくれと頼んだ。母親は驚いてしまう。いつもフトシの事を考えカロリーの低い食事を作っていたから無理もない。

「え、フトシさん、そんな事したら…」
母親ともあれば厳しく拒否したかったが、今ではフトシの方が年上であるから、強く言えないでいた。
「大丈夫、大丈夫。考えがあるんだ」

それからのフトシは、唐揚げ、フライドチキン、トンカツ、ビフテキ、ピザ、ラーメン、スナック菓子、チョコレート、アイスクリームなどの高カロリーの食事を毎日馬鹿ほど食べまくった。

1週間が経ち、フトシの年齢は10歳増の65歳となった。これこそがフトシの狙い。年齢が邪魔して働けないのなら、年齢を増やして年金を貰う。フトシが考え出した計画だった。

年金の手続きを済ませたフトシは、晴れて受給権者となった。しかしそれからが怒涛の日々であった。

年金を貰い始めて2カ月が過ぎた頃、フトシは持病の糖尿病が悪化して合併症を患い、病院で寝たきり状態となった。

一度は回復し退院したが、最期は心筋梗塞であっけなく死んでしまった。

記録によれば、最期のフトシの年齢は81歳だった。しかし彼の生涯は余りにも短すぎた。享年16歳であった。

作者プロフィール

春名功武(はるないさむ)

1977年、兵庫県生まれ。2000年大阪シナリオ学校演芸放送台本科卒業。第7回テレビ朝日21世紀新人シナリオ大賞優秀賞受賞。フジテレビ『世にも奇妙な物語』の脚本を執筆。第1回日経「星新一賞」優秀賞(JBCCホールディングス賞)受賞を経て、小説家としてデビューする。2015年からアニメ「ちびまる子ちゃん」の脚本をレギュラーとして担当し現在に至る。

【問い合わせ先】

メール:i.haruna@samba.ocn.ne.jp

小説を読もう!」にて作品掲載中。

前回のコラムはこちら↓

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