呪術解説【蠱毒】物部天獄の「人を使った最強最悪の呪い」死滅回游のモデル?

蠱毒(こどく)とは、古代中国より伝わる呪術であり、存在する呪術の中で最も効果が強いものの一種とされています。

中国華南の少数民族の間で受け継がれており、蠱道(こどう)、蠱術(こじゅつ)、巫蠱(ふこ)などとも呼ばれています。

蠱毒は儀式の内容がとても恐ろしいもので、壺などの容器の中に数十〜百種類の毒虫や生物を入れて共食いさせ、最後の1匹に残った生物を呪いの媒体として使うもので、そのおぞましい方法から最凶の呪術として太古の昔から恐れられてきました。

今回は、そんな蠱毒に関するさまざまな情報や、このおぞましい呪術をなんと人を使っておこなったとされる物部天獄という人物についても詳しくご紹介します。

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蠱毒の歴史|最も恐れられた呪術

その始まりは諸説ありますが、かなり古い文献などにも記載されており、古代から存在する呪術なのは間違いありません。

古代中国における呪術の重要性を主張する漢字学者「白川静(しらかわ しずか)」は、殷(いん:紀元前17世紀頃 – 紀元前1046年)や、周(しゅう:紀元前1046年頃 – 紀元前256年)の時代などに見られる甲骨文字(こうこつもじ)からも蠱毒の痕跡を読み取っているとされています。

畜蠱(ちくどく)と呼ばれる「蠱の作り方」について最も古い記録は、中国の史書である「隋書」(ずいしょ)にこうありました。

「五月五日に百種の虫を集め、大きなものは蛇、小さなものは虱(シラミ)と、あわせて器の中に置き、互いに喰らわせ、最後の一種に残ったものを留める。蛇であれば蛇蠱、虱であれば虱蠱である。これを行って人を殺す」

これはまさしく蠱毒の術式を表しています。

古代中国でこの蠱毒という呪術は大変恐れられており、蠱毒を行った者、行おうとした者も死刑に処すと法令で厳しく定められており、刑書には実際に絞首刑や斬首刑になった者もいたと記されています。

中国の公式文書ともいえる古文書にある最も古い記録は漢代(紀元前206ー220年)のもので、蠱毒をおこなった者には、見せしめの公開処刑を意味する「棄市(きし)」が規定されており、おこなった者だけでなく、させるように仕向けた者まで罰せられました。

さらには、他の歴史書などには「族」と記されており、これは一族が皆殺しの刑に処せられたことを意味します。

この刑は、例えば国家転覆を狙う大罪と同列に扱われたことを意味しており、当時の権力者が蠱毒をそれだけ恐れていたということでした。

日本では、厭魅(えんみ)に並んで「蠱毒厭魅」として恐れられ、757年(天平宝字元年)に施行された法令である「養老律令(ようろうりつりょう)」の中の「賊盗律(ぞくとうりつ)」に記載があるように、厳しく禁止されていました。

実際に処罰された例には、769年に不破内親王(ふわないしんのう)の命令で蠱毒をおこなった県犬養姉女(あがたのいぬかい の あねめ)が、死刑の次に重いとされる*流罪となったとあります。

呪術全盛の時代である平安時代以降もたびたび禁止されており、日本でもこの呪術は特に危険視されていたことがわかります。

蠱毒は、人の命を奪う呪術、いわゆる呪殺の方法の中でも特に相手に苦しみを与えてから死に至らしめる最凶の邪法として怖れられています。

蠱毒は人に病の苦しみを与えます。それゆえに呪われた相手は、何日も、何カ月も病の苦しみにさいなまれ、苦しみぬいた果てに命を落とすとされています。

*流罪 辺地や離島などに送られるというものですが、時代によってはその地にたどり着くまでにも略奪の対象として襲われたり、落武者狩りに襲われ命を落とすことも多く、実質死刑と同じと見られていた時代もありました。
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蠱毒のやり方|術式に必要なもの

ここでは、蠱毒のやり方や用意しなくてはいけない物をご紹介します。

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蠱毒に必要な物|準備する物

①毒虫などの生物

蠱毒は生き物を殺し合わせる呪術です。蟲とは単に虫のことだけを指すわけではなく、大きな生物である犬や蛇、小さなものではウジや虱(シラミ)まで、毒がある無し関係なく100種集めなければなりません。

②容器

集めた生物を入れる容器が必要です。壺から、集めた生き物のサイズによって部屋を用意しなくてはならないかも知れません。

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蠱毒|作り方

生き物を100種集められたら、いよいよ蠱毒の作成が行えます。

作り方は単純です。

集めた生き物を1つの容器に入れ、お互いを喰らい合わせて、1匹が生き残るまで待つ、それだけです。

この時、生き残ったのが蛇なら蛇毒、虱ならば虱毒というように、蠱毒の名前が決まります。

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できあがった蠱毒の使い方

蠱毒は、実に様々な使い方が存在しています。

中国式では、完成した蠱毒を細かくすり潰して呪いをかける対象の飲食物の中に混ぜ込ませます。つまり純粋に毒物として扱います。

日本式では、完成した蠱毒を神仏のようにまつることで、生き残った生物の神霊の力を借りて対象に呪いをかけます。

その他にも、呪いたい家の軒下に埋めることで呪う方法や、生き残った生物に呪う対象を直接襲わせるといった方法もあります。

正しい手順をふんで作られた蠱毒は、どのような使い方をしても効果は表れるともいわれ、その中でも用途に合わせてキチンと蠱毒の使えば、より強力な呪いの効果が現れるとされています。

このようにあらゆる使い方にも強力な効果が見込める蠱毒は、その分リスクも高いものになります。

次の項目ではあらゆるリスクを考えてみましょう。

最も危険な呪術だからこそリスクも高い

最も効果のある呪いとされる蠱毒ですが、その強すぎる呪いは、かける側にも常に危険がとなり合わせとなっています。

もし、あなたが蠱毒をやろうとする場合のさまざまな危険を考えてみました。

①毒虫を扱う危険

数十種類の毒虫を扱う蠱毒は、細かい管理と飼育が必要となります。虫同士を襲わせる前に、まず自分が襲われてしまう可能性もあります。

虫を直接触らなければならないので非常に危険といえます。気を付けましょう。

②呪い返しのリスク

呪いには相応のリスクがともなうのは当然です。そして呪いにおける最大のリスクとは、呪いが自分に返ってきてしまうことです。

これを呪い返しといいますが、これは相手がなんらかの方法で呪いを返してきた場合だけでなく、呪いをかける前に呪術を途中でやめてしまった場合にも呪いは返ってきます。

この場合、呪いをかけようとした以上の苦しみが自分へと返ってきます。大変強い呪いである代わりに呪い返しもその分強いもので、蠱毒の呪い返しは非常に危険です。

③逮捕されるリスク

現代の日本では呪術そのものを取り締まる法律はありません。しかし蠱毒をおこなう過程においては逮捕される可能性があります。

例えば動物をつかった場合ですが、動物にわざと殺し合いをさせる行為が動物愛護法の「動物虐待罪」で刑事罰となりますので逮捕されます。また、呪いをおこなっていることを相手に告げた場合には「脅迫罪」となりますので、呪うことで逮捕されることはなくてもその過程で法に触れてしまうリスクがあります。

そして逮捕されてしまった場合、呪術は途中で放棄されたものとされ呪い返しにあってあなたは獄中で非業の死をむかえることになるでしょう。

このように、あなたが蠱毒をはじめたら最後、相手か自分のどちらかが死ぬまで蠱毒は終わりません。

呪いたい相手がいても、始める前にはよく考えてからにしましょう。

物部天獄(もののべてんごく)|蠱毒を人でおこなった邪教の教祖

蠱毒という呪術を知る上で、ある恐ろしい人物もご紹介しなければいけません。

アニメ化もされて大人気の漫画「呪術廻戦」に登場するキャラクターであり呪いの王とされる両面宿儺(りょうめんすくな)。これは実在する人物であったというお話があります。

そして同じように、ネット掲示板にて語られる都市伝説の中に「リョウメンスクナ」という恐ろしい都市伝説があります。

その中に登場する人物「物部天獄」は明治時代から大正時代にかけて生きていた人物とされています。明治時代から始まった文明開化の波に乗って、西洋文化が大量に入り込んだことで、日本の科学技術はこの頃に大きく進歩することになります。

しかし、明治時代は日清戦争や日露戦争など対外的な情勢不安による混乱も多く、さらには大正時代には桜島の噴火や関東大震災などの天災が頻発しました。

物部天獄が生きたこの時代は、近代化の波の中で日本全土が大きな混乱にあった時代と言えるでしょう。

物部天獄はとある邪教、いわゆるカルト教団の教祖であったとされています。

決して歴史の表舞台に立つことはなく、具体的な教団名や教義など、その大部分が不明となっています。

カルト教団と聞くとどこか非現実的に思う方もいらっしゃるかも知れませんが、1921年(大正10年)には、内務省が複数の宗教団体を邪教淫祀とみなし、そのひとつである大本教の神殿を全て取り壊す決定を行いました。同時に祭神不明の1000余りの神社を廃止することを決定しています。

このようにカルト教団と呼ばれる存在はこの時代無数にあったことは事実でした。

物部天獄については、生い立ちなども一切不明であるため、どういった経緯でこのカルト教団の教祖となったかは分かりません。

おそらくこの物部天獄という名前も本名ではありません。物部という姓は古くからあるもので、現在も岡山県や京都府など西日本を中心に1800世帯ほどある苗字ですが、天獄という名前はおそらく実在するとは考えにくいでしょう。天国と地獄からとったようなこの名前を名乗っていたのかも知れません。

そしてこの人物が、後に最強の呪術である蠱毒をなんと「人間」でやるという寒気がするほど恐ろしい事をしてしまうのです。

人間を殺し合わせて生み出した最凶最悪の蠱毒「リョウメンスクナ」

大正時代、見世物小屋というものがありました。今では考えられませんが、例えば生まれながらに手や足が無かったりするような子供などを親が売ってしまったりしていました。その売り先がこの見世物小屋で、その異なる見た目を客の見せ物にされていました。

そこに出されていた人間の一人に、頭が2つに手足が4本あった者がいました。いわゆるシャム双生児です。

一卵性双生児で、対称的体部で結合した状態で生まれたこのシャム双生児は、生まれて数年は岩手のとある部落で暮らしていましたが、生活に困った親が人買いに売ってしまい、そこから見世物小屋に流されることになったといいます。

そしてある日、物部天獄のカルト教団によってその見世物小屋から買い取られました。

物部天獄は大金を払い、見世物小屋からこのシャム双生児をふくむ数名の奇形の人間を買い取り、なんと人間で蠱毒をしようと考えたのです。

本来はあらゆる毒虫を閉じ込めて共食いをさせるこのおぞましい呪術を、人間でおこなうというのは考えただけでも寒気がするほど恐ろしいものでした。

物部天獄は、前後に顔があり、腕や足が4本あるあのシャム双生児の姿をたいそう気に入り、わざとシャム双生児が生き残るように蠱毒をはじめる前に、他の人間には致命傷を負わせたうえで放り込むなどしたといいます。

そして閉じ込められた暗い地下室で、他の人間の肉を食べ、自分の糞尿まで食べてひとり生き残ったシャム双生児を、また別の部屋に閉じ込め、最期は餓死させたのでした。

物部天獄は、この餓死したシャム双生児に防腐処理をほどこし即身仏にし、見た目の特徴が酷似していることからこれを伝説の鬼神「リョウメンスクナ」として教団の本尊としました。

さらに物部天獄は、大和朝廷に滅ぼされた古代人の骨を粉末にして、リョウメンスクナの腹の中に入れ、より呪いを強いものにしました。

そうしておぞましい呪いを込められたこのリョウメンスクナを呪物として使用し呪った対象は

なんと日本国家そのものでした。

このリョウメンスクナの力はすさまじいものでした。

別の記事で詳しく紹介していますが、大正時代に起こった数々の災害は、なんとこのリョウメンスクナが起こしたものとされています。

あの、死者行方不明者が14万人にものぼる大正時代最悪の大災害「関東大震災」

1923年9月1日、物部天獄は地震が起こる直前に自殺していました。

彼は日本刀で自らのノドをかき斬って、その血で

「日本、滅ブベシ」

と遺書を書き残し、リョウメンスクナの前で死んだとされています。
この時、物部天獄はまさに関東大震災の震源に近い相模湾沿岸の近辺にいたとされています。

これが、物部天獄という人物が関係しているとされる出来事でした。

蠱毒の種類|生き残った動物によって効果はさまざま

蠱毒は大小合わせてさまざまな毒虫や動物を食いあわせる呪術です。

つまりどの生物が生き残るかは、術者には分かりません。そして生き残った生物によって呪いの効果もさまざまとされており、使用される生物の数だけ膨大に種類があります。

その中からいくつかご紹介します。

蛇蠱|想像を絶する苦痛

生き残った蛇を殺し、粉末状にして呪いたい相手に飲ませるという方法があります。

呪われた対象は、まず妊婦のように胸や腹が張ってしまい、最後には飲まされた蛇と同じくらい大きな蛇のような吐しゃ物を吐いたり、体中を蛇が這いずり回っているような感覚におそわれたり、最後には6〜7センチの腫瘍が出来ると、それが動き回り体の内側から噛みつかれるような痛みに襲われます。

症状は夜、重くなりその痛みによって寝ることも出来ず、30日ものあいだ苦しんだのちに必ず死ぬとされています。

犬蠱|凄まじい怨念と惨たらしい最期

日本には「犬神」と呼ばれる呪術がありますが非常に似ています。犬神とは、餓死寸前の犬の首と胴体を切り落とし、別々の場所に埋めることで相手を呪うというものです。これは非常に凄まじい怨念をもっているとされています。

この犬蠱は、殺した犬の肉を食べさせることで、相手は近いうちに犬に襲われ喰われて死んでしまうという、むごたらしい死を迎えます。

公鶏蠱|延々続く痛み

変わり種も紹介するとしまして、鶏(にわとり)を使った方法も存在します。

呪われた相手はまさに鶏に体を延々と突かれているような痛みに悩まされるようです。

虱蠱|まさに地獄

虱(シラミ)を使った呪法も存在します。

たかがシラミとあなどるなかれ、これは呪った相手の体中が耐えられない痒(かゆ)さに襲われ、かきむしると発疹のような泡が出来てしまい、それが潰れるとさらにそこから大量の虱が出てくるという恐ろしい呪いです。

まとめ|呪術廻戦の死滅回游も蠱毒がモデル?

いかがでしたか?

あまりにショッキングな儀式からか、色々な作品でモデルとして使われがちな蠱毒ですが、代表的なものでは伝奇SF「帝都物語」や、「HUNTER×HUNTER」の王位継承権編、「呪術廻戦」の死滅回游がこの蠱毒に非常にシステムが似ているものとなっています。

ちなみに死滅回遊魚という言葉がありますが、これは「回遊してきたけど、死滅してしまう魚」のことを指しています。本来は暖かい海に生息しているはずの魚たちが、潮や台風の影響で、本来なら生息するはずのない冷たい海域に流されてしまい、死んでしまったりするのです。

こうして、至るところで取り上げられるまさに呪術の王様ともいえる蠱毒ですが、トップクラスに危険な呪術ですので皆さんくれぐれもやろうともしませんように。

人を呪わば、穴ふたつです。

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